新型コロナの流行やロシアによるウクライナ侵攻など、世界が大きく変わる出来事があると、どこからか陰謀論も湧いてくるものです。そして意外なことに、一見おかしな理屈でも人は騙されることがあります。私たちが陰謀論を信じてしまう理由について、私なりに考えをまとめてみました。
陰謀論の特徴とハマる理由
陰謀論はよくできている
陰謀論の視点から見ると、それなりに論理がしっかりとしているように見えます。
例えば、「ロシアによるウクライナ侵攻はアメリカが糸を引いている。戦争が行われることで軍需産業が儲かるのが理由だ」といった陰謀論には、一見それらしいような「アメリカの軍需産業が莫大な利益を得るために、ロシアが戦争するよう系を引いている、この戦争で一番得をしているのはアメリカだ」といった理屈が用意されています。
「ロシアが無謀な戦争を仕掛けるのには何か理由があるに違いない」という、一見もっともらしい理屈に陰謀論の恐ろしさがあります。これを見て腑に落ちた時、人はあっさりと騙されてしまいます。
陰謀論を完全に否定することは難しい
陰謀論は完全に否定することができません。例えば、宇宙人と交信できると主張する人がいて、この人が嘘をついていると”完全に”否定することは容易ではありません。一度信じてしまった人が抜け出せなくなる理由はここにあります。
また、陰謀論には一部真実が混ざっていることがあります。例えば、ウクライナ戦争によってアメリカの軍需産業が潤っているのは、ある程度正しい認識と言えますし、事実が入ることによってより信じやすくなるのです。
上記のような特徴を持つ陰謀論ですが、これらは人間の先入観の上に成り立っています。では、我々が陰謀論にハマらないためには何ができるのでしょうか。
人間には先入観がある
陰謀論に騙されないようにするためには、人間の先入観(バイアス)について理解し、情報の精査を行うのが現実的な対策です。また、その考えについて、いろんな人と意見を交わすのも良いでしょう。一番身近な家族ですら意見が食い違うものですし、他人の考え方を含めて判断するとよりバランスのある判断ができるものだと思います。
以下、人が持つ先入観と、情報整理の方法をまとめています。
確証バイアス
自分にとって都合が良い情報ばかり集める性質を確証バイアスと言います。自分と同じ意見の人がいないか、ネットで検索した経験は誰にでもあると思います。気を付けていたとしても、人は自分の意見を支持するような記事や動画を選んでしまう傾向にあります。偏った思想の人々が、真偽不明の情報を鵜呑みにしてしまうのはこのためです。
研究や論文の作成時にもこのようなことは起こり得ます。自分に
原因が一つしかないという先入観 単純化、白黒思考
人は物事を単純化しやすい性質を持っています。そして、複雑なものより単純なものの方が受け入れやすいです。
陰謀論は原因と結果が単純明快で、一見すると魅力的に感じるものです。人間は複雑な物事を単純にしたい生き物なので、「Aの原因はBでした」と言われるとスッキリした気持ちになるわけですが、世の中の現象はそう単純ではありません。
例えば、あなたが今日のうちに3つの用事を済ませる予定だとします。しかし、3つ目の予定には間に合いませんでした。なぜ間に合わなかったのかを考えると、朝の準備が遅かった、道が渋滞していた、2つ目の用事が思い通りに進まなかった、など複雑に関係していたりします。どれかがズレると結果も変わってくるわけです。
このように、世の中の出来事について因果関係を明確に示すことは非常に難しいです。複数の原因から結果が生じていることが多く、陰謀論が示すような分かりやすい構図とはなっていないものです。
自分には教養がある、自分は騙されないという先入観
自分には教養があるという自信や、自分だけは騙されないという先入観があると人は騙されやすいです。高学歴の人でも陰謀論にハマるのはこのためです。
また、「裏ではこのようなことが起きていた」など、陰謀論は世界の一般的な認識を大きく覆すような主張であることがほとんどです。意外性がある発見、世間では受け入れられていない主張を目にすると、大いなる知的発見に出会ったと思い込んでしまったり、自分だけがそのことに気づいているという錯覚に陥ることがあります。
全てのものに意味があるという先入観
人は何かと意味を見出す生き物です。そうしなければ理解できない、納得できないものが多いためですが、実際は意味を持たない出来事も多いです。
例えば、「大災害が起きたのは何か悪いことをしたからに違いない」といったものがあります。しかし、悪いことをしていない人にだって災害は降りかかるものですし、こういったものに何か暗示させるようなものを感じるのであれば、それは自分自身が意味を見出しているということです。意味は人間が作り出すものであって、物事と一緒に意味が落ちているわけではありません。
ロシア・ウクライナ問題を例にすると、「ロシア側も損をしているし、ロシアがウクライナに侵攻したのには、それなりに合理的な理由があるはずだ」と考える人もいるようですが、合理的な理由が存在しない物事もあるということです。
陰謀論にハマらないためには
以上の先入観に気を付けるだけでも、陰謀論に騙されにくくなりますが、加えて以下の点を確認するとより騙されるリスクを減らせるものと思います。
論理の飛躍はないか
一見もっともらしい理屈も、AだからBの関係が本当に繋がっているのかを検証すると怪しいものです。
戦争が始まると軍需産業が儲かるのは本当のことです。アメリカの兵器を製造する会社が潤ったのは紛れもない事実ですし、アメリカがこの状況を利用しているのも一つの真実でしょう。
しかしながら、アメリカ(またはNATO)がロシアを戦争へ誘導することは可能なのでしょうか。先に述べたように、世の中は複雑に関係しあって現象を形成しているので、アメリカがロシアを戦争に向かわせるという計算をしたとしても、ロシアが思惑通りに動くとは限りません。仮にアメリカがロシアを戦争へ誘導したとして、このような展開をアメリカは予想し得たでしょうか。
論理だけではなく実際の出来事を観察しよう
確かに陰謀論を論理的に否定するのは簡単ではありません。しかし、ロシアのウクライナ侵攻におけるロシアの行動面に着目すると、論理と実際の行動には大きな乖離があることが分かります。
ロシアは「ロシア系住民を保護するため」という大義名分を掲げてウクライナへの侵攻を始めましたが、実際にはウクライナの首都キーウに対して攻撃するという行動を取りました。この点を踏まえると、ロシアの主張するロシア系住民の保護という理屈は、やや無理やりな印象を受けます。
ロシアは色々な理屈を付けて説明するのでしょうが、どんな理屈を付けても、最初の説明と行動が一致していないのは無理があると言えるでしょう。
情報の出所はどこか、個人のブログではないか
よく言われるのが「マスメディアは情報操作されているから信じられない」というものです。確かにそういった側面がありますので、マスメディアの情報を全て鵜呑みにするのは危険です。
では、陰謀論はどうかというと、出どころを辿れば個人のブログやSNSの投稿であることがあります。しかし、マスメディアの情報が怪しいものであれば、個人のブログやSNSで出回っている情報も同じように疑わしいものではないでしょうか?個人のブログの方が信頼に値するという確証は得られないのではないでしょうか?
公的機関やマスメディアが信じられないのではれば、個人発信の情報もかなり怪しいという結論になるはずです。その個人がある団体から依頼されて情報を流しているという可能性は否定できません。 結局はバランスの問題です。
私たちには何ができるのか
ではどうやって情報の正しさを見極めるかというと、世界各国のマスメディアや公的機関の発表を確認するのが最もバランスの取れた情報を得られると私は考えています。ロシアとウクライナの戦争であれば、あまり利害関係がない国はどう報じているのか、この辺りをよく吟味する必要があります。
また、色んな意見を持った人と話をすることも重要です。受け入れ難かった意見について、全てが真であるとまではいかなくとも、ある側面では事実であるということを知ることができます。
そして最後に、多くの本を読み、経験を積みながらバランス感覚を養っていくことが、陰謀論に騙されないために必要なことなのだと思います。様々なジャンルのあらゆる視点を学ぶことで、真理はこのあたりにあるのだろうという大まかな絞り込みができるものだと、大学の教授から教わりましたし、私は今でもそう信じています。
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