仕事でミスが多い人が陥っていること 『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』より

 就職して忙しい毎日を送る中、ミスを連発して自信を失う人は少なくない。それも、次々やってくる仕事に追い回されて、今週を切り抜けることで精一杯という状態もしばしば。こんな人は、ある状態に陥っていて、本来持っている力を発揮できないまま仕事に押しつぶされている可能性がある。これはあなたの能力が低いからではなく、どのように力を使うかを配分できていないだけかもしれない。

 就職後の僕は、期限に追われては間違いを犯すし、そんな簡単な間違いを見逃す自分が信じられなくなっていった。特に忙しい部署にいた関係でそういう自分を振り返る余裕もなかった。

 そんな中で出会った本は、僕に解決策を立てる道筋を示してくれた。この記事では、『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』の要点を押さえて、仕事で悩んでいる人に向けた現状と解決策を紹介したい。

仕事に追われると視野が狭くなる

 本書では、時間やお金が不足することを「欠乏」と表現しており、人々は欠乏状態では視野が狭まる「トンネリング」を起こすと書かれている。例えば、金欠の給料日前、生活費が気になって仕方がない人はそれ以外のことを重要でない問題であるかのように扱ってしまう。その結果、大事な書類の提出が遅れたり忘れたりしてしまう。

 宿題で追い込まれている時もトンネリングを起こしているかもしれない。夏休み残り数日の時点でまだ宿題が終わっていない。そういう時、人は焦りからとんでもない集中力を発揮するけど、実は大切なことが視野からこぼれ落ちているかもしれないし、人に見せられない成果物を先生に提出することになる。

 この状態、実は仕事の締め切りに追われる僕たちによく似ている。期限当日、焦って仕事を仕上げたばかりに普段ならしないような間違いを連発して、本来しなくていいはずの訂正作業に追われることになる。

 トンネリングを起こすとき、僕たちはすでに仕事に追われるサイクルに入っているし、実際に時間はないのだけど、「時間がない」「他のことに時間を割けない」と思い込んでいる側面もある。そして締め切りが迫っている重要な案件を先延ばしにして、さらに手に負えなくなってしまう。

処理能力の問題

 時間やお金の欠乏に気を取られると、そこに脳の処理能力を費やしてしまう。つまり、仕事に追われている状態は処理能力が低下していて、通常よりスピードが落ちてしまっている。急いで仕事をしなければと思えば思うほど、僕たちは仕事に時間がかかって、あり得ないミスをする可能性があるという悲しい話。

 働く時間を増やしてもあまり仕事(課題)が進まないという経験は誰しもがあると思うけど、働けば働くほど人の処理能力は下がっていくというデータがあると紹介されている。僕たちはどんなに仕事に追われていても、処理能力を回復させることに集中すべき期間があるのかもしれない。また、処理能力を使う加減を調節して節約することも重要。

 仕事を終わらせるには時間を増やすというのが一般的に考えられそうなことだけど、思い切って休むというのもいいかもしれない。その代わり、休むときはあれこれするのではなく、何も考えず何もしない日にする方が処理能力を回復できるそう。

仕事に追われないための対策

余裕のあるときに準備をする

 当たり前じゃないかと思う人もいるだろうけど、時間がなくなれば冷静な判断ができなくなることが問題である以上、これほど効果的な対策はない。

 時間が余れば、だらだらと仕事をしてしまうし、お金が余れば無駄遣いをする。これでは、いずれ欠乏に陥る。余裕があるときにうまく時間を使えれば、忙しくなる時期を余裕を持って迎えられ、余分な仕事を全て片付けておける。

 著者が指摘するのは、裕福な時の時間の使い方やお金の使い方に問題があるということだ。一度仕事に追われれば冷静な判断を下すのが難しくなる。できるだけ時間に追われない工夫を前もって行うことが最大の対策と言える。

先延ばしにしない

 先延ばしの癖はあとで致命的なダメージとなる。借金は複利によってとてつもない速さで膨らむが、仕事も後回しによって負担が増える。処理能力に余裕のない時期に重たい提出物を片付けるのは、処理能力の面でも精神的にも負担が大きい。

 僕は先延ばしのプロだが、この本を読んでからは「今片付ける」ことを意識している。それは先延ばしの利子が高くつくことを学んだから。

仕事に追われている最中に有効な方法

 メモ、リマインダー、チェックリスト。どれも基本的で有効な手段だが、意外にも実践しない人が多い。メモは、記憶することに使う脳の処理能力を節約できるし、チェックリストも頭を使わずに仕事を進められる。集中している状態でも次の仕事を教えてくれるリマインダーは、重要な仕事を優先的に進めるよう頭を切り替えさせてくれる。

 「社会人の基本」といった抽象的な理由ではなく、自分をサポートしてくれる存在としてメモを取ることをオススメしたい。

1ヶ月以上先の締め切りを作らない

 締め切りまでの期間を長く設定すると、ダラダラと仕事をする時間ができてしまう。自分自身もそうだし、一緒に仕事をする仲間もそうだ。そこで、なるべく短く小刻みに締め切りを作る方が、だらける時間がなく効率よく仕事を進められる。大きな仕事なら(1)~(2)は1週間後、(3)~(4)は3週間後といったように分けて設定するのが好ましい。これを全部まとめて3週間後にすると、結果として最後の数日に詰め込んでやるという現象が起こりがち。

締め切りが先でも、重要なことを放置しない

 自分だけで完結しない資料、準備にかなり時間を要する仕事など、締め切りが先でも早めに着手した方がいい仕事は多い。仕事に追われていると新しい仕事なんて見たくもないが、10分使ってメールを確認する作業が明後日の自分を助けたりする。残業が続きそうな時は、思い切って2日残業して、日数を続けないことも重要。

処理能力を意識した仕事の配分

 時間がどのくらいかかるかについて僕たちは管理しているが、処理能力をどのくらい使うかについてはあまり考慮しない。

 

マインドセット 落ち着くこと、諦めること

 考え方を整理してトンネリングを回避することもできる。例えば、締め切りを気にしないというものだ。締め切りが気になるので、処理能力に大きな影響を与えている。そうであれば、締め切りに追い込まれる状態をなるべく緩和する練習をする。こういうのは、実際にその場面に遭遇すると練習できる。

 また、いくつかの仕事について締め切りまでに出すことをきっぱりと諦めることも重要だ。遅れたら怒られそう、人からの評価が気になるという人は、そういったプライドとか意地を手放してみれば案外スッキリするかもしれない。優秀な人だって締め切りに遅れるので、たった一回あなたが締め切りを守らなくても、あなたの信頼が大きく崩れることはない。ただし、遅れる癖がある人はこういう考え方を捨てるべきかもしれない…

 仕事が積み重なり始めたら、むしろゆったりと仕事をする練習を続ければ、冷静さを保てるようになる。僕も今日の仕事で、冷静さを失いかけながらもなんとか平静のまま1日を終えられたのは、これまで冷静でいるための練習とイメージがあったからだ。考え方(マインドセット)をしっかりと作っておくのは、思っている以上に効果がある。

 

 仕事でミスが続く人は、一度効率化だけでなく自身のメンテナンス、仕事を組み立てる構造、職場の環境にも目を向けてみると、きっといい結果につながる。

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